最終回『知らされた真実・後編』 清水俊樹(演出助手)

ガンツによって知らされた衝撃の真実。
僕は松尾から巻き上げた金で飛行機のチケットを取り、はるばるブラジルまでやってきた。
(言っておくが、嘘をついていた松尾を許す訳ではないのだから、
飛行機のチケット代は松尾の金を使って然るべきものだ)

手紙の住所を頼りに僕はおばあちゃんの家を訪ねた。
サンパウロの郊外、アマゾン川のほとりに農園を営むおばあちゃんの家はあった。

僕を出迎えてくれたのは、おばあちゃんの娘さん、つまり松尾の叔母さんに当たる方だった。
どことなく松尾に似てなくもない。
そして僕は、その松尾似の叔母さんから更に驚きの事実を伝えられた。
おばあちゃんは亡くなっていたのだ。
先月の26日の事だそうだ。
しかし、その日は公演初日の3日前、僕らとおばあちゃんが別れた日だ。
僕が日本からこの家まで来るのに丸1日以上かかったのを考えれば、当然そんな事はあり得ない。

叔母さんに確かめると、そもそもおばあちゃんは日本になど行っていないと言う。
どう言う事だ?
聞くと、おばあちゃんは体調を崩して入院し、8月の頭からずっと昏睡状態だったそうだ。
そんなおばあちゃんが日本に行ける筈がない。

あのおばあちゃんは、松尾のおばあちゃんではなかったのか?
いや、松尾が自分のおばあちゃんを間違う訳がない。
では、偽物のおばあちゃんを松尾は僕らに紹介したのだろうか?
しかし、そんな事をして松尾に何の得がある訳でもない。

叔母さんにパソコンから稽古場日誌の写真を確認して貰ったが、やはりそれがおばあちゃんである事に間違いはなかった。
この事実に叔母さんが一番驚いていた程だ。

この事を松尾は知らなかったのか?
叔母さんも何度も何度も松尾に国際電話をかけたのだが、松尾の携帯が止まってて連絡がとれなかったらしい。
こんな大事な時にあいつは、電話代くらい払えって言うんだ。

そんなんだから当然松尾にも確認がとれず、さっぱり分からない。
この事にどう説明がつくだろう。
こうなってくると、どうしても非科学的な発想をせざるを得ない。
やはり、おばあちゃんは売れない役者をやっている孫が心配で、昏睡状態にある間、
亡くなる前にその体から抜け出して松尾に会いに来たのだろうか?

しかし、僕らの会ったおばあちゃんは確かに存在した。
8月の約1ヶ月間、僕らと一緒に過ごした事に間違えはない。
そう考えたら、この不思議の理由等、僕の中でどうでもよくなった。
おばあちゃんとの日々は決して幻なんかじゃなかたんだから。

僕は遺影の中のおばあちゃんに手を合わせ、感謝の気持ちを伝え、おばあちゃんの家を後にした。

まっすぐ日本に帰るつもりだったが、僕は予定を変更する事にした。
帰国日程を遅らせて、僕のおばあちゃんの暮らすメキシコを経由してから帰る事に。

 

最終回『知らされた真実・前編』 清水俊樹(演出助手)

公演はひとまず成功のうちに終わった。
しかし、僕は納得がいかなかった。いや、納得いく筈がない。
何故、皆はあんな仕打ちを受けて松尾を許せるのか?
嘘をついていた松尾が許され、真実を伝えようとした僕がタックルを喰らうなんて、
どう考えても理屈に合わない。

それは、公演を観に来ていたガンツが、終演後に楽屋に訪れた時だった。
「感動した」と、未だに小泉首相を引きずってるのを見て何だかむかついていると、
そんな僕を見てか、ガンツは性懲りもなく僕に話し掛けてきた。

シカトを決め込んだが、みんなには内緒だと言って一方的に話すガンツの話の内容に僕は耳を疑った。

なんと、おばあちゃんは全てを知っていたと言うのだ。
全てと言うのは、松尾がおばあちゃんについていた嘘の事である。

松尾がIT企業の社長なんかではなく、本当は来年あたり解散しそうな劇団の劇団員である事も、
あの高級マンションは稽古場として利用しているただの公民館である事も、
婚約者の桜井さんは、実は田辺さんとデキている事も、
マリさんの産んだ赤ん坊の父親が加瀬さんらしい事も、
松尾が裏で女子にセクハラをしている事も、
身長をサバ読んでいる事も、
年齢が今年42歳である事も、
大佐藤は会話が噛み合わない事も、
そして僕が本当は心の優しい青年である事も、
全てだ…。

僕の知らない事までもをおばあちゃんは見抜いていた。
それも最初から気付いていたらしい。
では、おばあちゃんは嘘だと知りながら松尾やみんなの芝居に付き合っていたと言うのか。


ガンツ扮する小泉首相と食事に出掛けたあの日、おばあちゃんからガンツにその事を切り出してきたそうだ。
そして、ガンツは隠し通せないと思い(本当は食い物につられでもしたのだろう)、
本当の事を全部喋ってしまったのだ。
本当の首相が自分ではなく、安倍晋三だと言う事も。
今や安倍晋三ですらないのだが。

しかし、おばあちゃんは怒っていなかったと言う。むしろ嬉しそうだったと。
達也(松尾の日本名)の迷惑な嘘に付き合ってくれる友達がこんなにも沢山いる。
そう思うと嬉しくてついだまされたフリをしてしまったのだそうだ。
僕は自分が恥ずかしくなった。
そう、おばあちゃんがブラジルへ帰った後も、松尾に苛立っていた僕は、本当の事を
おばあちゃんへバラしてやろうと、その住所を調べ上げて手紙まで書いて送ろうとしていたのだから。

居ても立ってもいられなくなった僕は、おばあちゃんにただ一言謝りたくて、
千秋楽を終えたその足でブラジルまで飛んだ。

 

8月28日 「大佐藤の本番前日の日記」 大佐藤崇

光のどけき 春の日に〜
夏ですよ。大佐藤です。さあとうとう来ました。明日は本番です。今あまりの緊張で日記を書いてる手が震えてまふ。
演劇の前日って照明音響のあたりやら、本番同様に通したりするんだけど、ほかの業界ってどんな感じなんだろうな。猪木祭りとか。ここで乱入して、マイクパフォーマンスをして“やれんのかオイ”と言って頂きます。なんて言われるんだろうか。
この前日っていうのが一番疲れんだよね。いろんなきっかけ合わせのあとに本番同様の通しだから実質2回通すようなもんだ。非常にキビシーぬわあぁぁー麻雀とかしてまったりしてぇー。
写真は音響やってる、れいこさんだよ よろしくちゃん。いい音だすぜー
もう一枚は公演祝いの花の前でチ−ズ!ひなちゃん宛てにドーンとあるね。ゆずポンからも来てるよ、ありがとう!
この前で昼飯食いたいなあ。気分はお花畑さ。バスケットにいれたサンドイッチがお似合いだね。おっとピーナッツサンドも忘れるな。じゃあ誰かよろしく。俺、食う係だから。洗いはするよ。てゆーか明日本番だよ。
ここで一句!

台本を おぼえながらの 逃避行
我が心中を 蝉ぞ 知るらむ

 

8月27日『劇場入り』足立雲平

昨日はお見苦しい所を見せてしまってお恥ずかしい限り、人生恥の上塗りばかりの雲平です。

さてさて今日はついに劇場入り!
この劇場の空気というのはいつ嗅いでも新鮮。熱海の秘宝館の空気に似てますね。

心機一転、本番を間近に皆さらに気を引き締めて頑張ろう!という時に松尾さんが突如膝を落とし土下座。
これまでの事をお詫びしたいとホールのケーキを差し出す始末。

いや、いつもだったら絶対許さないし2週間は口きかないけどね、松尾さん、今回のこの件に関しては誰も怒ってないよ!
だって松尾さんのおかげでおばあちゃんに出会えたし、もうみんなのおばあちゃんだもん!怒るどころか感謝の気持ちでいっぱいだよ。
ありがとう松尾さん、ありがとうおばあちゃん!

そんな中、桜井さんだけが今まで見たことのない、まるで仁王像にパンストかぶせて引っ張ったような恐ろしい形相で激怒していた。
なんで…?メソッドがなんちゃらとか叫んでたけど何の事…?
と思うも怖くて聞けず…。
とりあえず僕の分のケーキをあげときました。ドキドキ…。

 

8月26日「足立と涙とスタッフと通し」斉藤マリ

ロリータ男爵のピーチパイこと、斉藤マリです
とうとう稽古最終日です。
そして、役者松尾のおばあちゃんがブラジルに帰ってしまう。
稽古最終日だけど、稽古前におばあちゃんを見送ることにした。
稽古最終日なんて、もう当然昼から稽古するし、昨日も遅くまで稽古稽古だったけど、
おばあちゃんともう会えないとなると、早起きも辞さない。
さようならおばあちゃんとの日々。

すると突然足立が取り乱し、
僕のおばあちゃん、僕のおばあちゃん、と言って泣きじゃくった。
昨日といい、こんな足立、、見たこと無いっす。
どうやら足立は、大好きだった自分のおばちゃんを早くに亡くし、
その影を役者松尾のおばあちゃんに投影していたらしい。
けなげな足立、、、。
そんな足立を見て、みんなも泣いた。
稽古場までの道すがらも、みんなで、泣いた。
足立も泣き続けた。
通し稽古も、みんな、泣いていた。
スタッフまでもなぜかもらい泣きして、通しを見てるんだか見てないんだか、もう、
分からない。
しかし、そんな足立もいつしか泣き止んだ。
ありがとう、おばあちゃん。
そして、
さようなら。

PS  おばあちゃん、おばあちゃんにはもう会えないけど、
   代わりに授かったこの命をおばあちゃんと思うことにすることを誓います、、。

 

 

8月25日「雲平くん、おばあちゃんを独り占め!」丹野晶子

どうも〜!丹野です!最近味噌をまぶして肉を焼くことを覚えました。夏バテには豚がいいらしいですよ!
っつって、もう8月も終わりじゃん!
花火の一つも見てないけど、池袋ナンジャタウンのお化け屋敷には行ってきました。
もっと怖いのよこせ〜っ!

昨日二人目の赤ちゃんを生んだマリちゃん(つい数日前に涼しい顔して一緒にナンジャに行ったのに!)、産後の経過も良く、稽古も赤ちゃん連れで参加してます。
私うんだことないからわかんないけど、こういうもんなの?
ううん、きっと、おばあちゃんのお陰なんだと思う。ホントに、おばあちゃんには感謝してもしたりない。
私もこの気持ちを何かで返さなきゃって思?のに、おばあちゃん、明日帰るって言うんです。
知らなかったよ!早く言ってよ〜!

意外なことに、それにすぐ反応したのは雲平君。ポロポロポロポロ、泣き出してしまいました。
白金色の髪、白い肌、。ただでさえ気化しそうな雲平君だってのに、マジ溶けるか思いました。
実はおばあちゃん子だったみたいで、松尾さんのおばあちゃんを我が祖母のように感じていたんだね。ホロリ。

そんなホロリな場面だってのに、清水君がおばあちゃんに、マリヲ社長に非ずの真実をバラそうとして、福屋君にタックルをくらいました。福屋君のタックルはラグビー部仕込みだぞ!
そりゃ確かに松尾さんは社長でもなんでもない。でもさでもさ…。

 

8月24日『ブラジルの産婆』草野イニ

今日という日を僕は忘れる事はないでしょう。

稽古も大詰め、そんな中マリさんが突然産気づきました。産気と台本全体の約7割を占めるという膨大なセリフを請け負う看板役者のプレッシャーとの狭間でがんばるマリさん。役者の鏡です。

でもついに山場の謎解きのシーンで破水!予定日は先のはずなのに!

わ、ホントに水が出た!!!

でも二人目だからかマリさん意外と冷静。その場に居合わせたみんなは動揺。

するとあわてふためく僕らをよそに、これまでじっとニコニコ余興として稽古を楽しんでいたおばあちゃんが突然その場を仕切り出した!

「お湯!」

「タオル!」

「男手!」

あまりの手際の良さに驚くしかなく、大佐藤さんはこの出産シーンを目の当たりにして失神。みんなが言われるがままに手伝い、そして祈る中、無事に斉藤マリ、稽古場で第二子を出産!!今度は元気な男の子!

---

おばあちゃんは昔は産婆さんとして地元で産まれる赤ちゃんの出産のほとんどに立ち会っていたそうな。もちろん、松尾さんを取り出したのもおばあちゃんなんだって。どうりであの動き、無駄がなかったわけだわ。

本番まであと5日!どこまで今日の経験を活かせるか、今度は僕ががんばる番です。

 

8月23日(木) 『あした…勇気を出して』 役者松尾マリヲ

今、清水に脅されている。
実はずっと黙っていたが、俺はおばあちゃんに嘘をついてきた。
その嘘を劇団のみんなにも協力してもらっていたのだが、清水がその事をおばあちゃんにバラすと言うのだ。
日毎、その脅しも頻繁になってきた。
今日も夜中から30分おきに同じ脅しメールが送られてきている。
金をよこせと言われても、おばあちゃんに見栄を張った生活を見せる為、連日の隠れ家的レストランでのディナーや、観光やらで俺の貯金はもう既に底をついている。
だからと言って、
「じゃあ、俺を劇団員にしろ」
なんて無茶な条件は飲めないし、そんな事俺の一存では決められない…。
その心が、未だ劇団員になれない一番の理由だと早く気付いた方がいいと思うのだが。

しかし、自分の嘘を信じ切り、いつも笑顔のおばあちゃんを見るのはもう辛い…。
おばあちゃんの日本滞在がこれ以上長引くようなら、もう嘘を突き通すのはもう限界だ…。

酒の量も増えてきた…。

明日おばあちゃんに本当の事を言おう…。

 

8月22日 福屋 『見てしまった、清水さんの脅迫』福屋吉史

毎日暑いですけど電車は寒いですね。そのせいで、今夏は二度も、もらしちゃいまし
た。
さてさて、ちょっと恥ずかしいのですが、僕は漢字に弱いので台本の中にも読めない
漢字がちらほらあります。そんな時は演助の清水さんに教えてもらってます!
だから今日も読めない漢字にカナをふってもらおうと思ったのですが、清水さんの姿
が見当たりません。
清水さんを捜していましたら、トイレから清水さんの声が。
なんと清水さんが松尾さんに、『おばあちゃんに嘘をついている事をバラすぞ』と脅
していたのです!!
どうしよう、、見ちゃった、、、漢字もわからないままです!!

どうすればいいんだー!新人は辛いです。

 

←もっと古い日記